PS3/PS4/Steamのプラットフォームで発売中のパズルアクションゲーム「Contrast」(2013)。先日行われたSteamの大型セールで購入した物をクリアしました。ゆっくりプレイしても数時間程度でしょうか。実績(トロフィー)収集もラクな部類だと思います。
感想を率直に言うと素晴らしかったです。
『物語の力を信じている』人々によって作られた稀有な作品だと感じました。映画・小説・ゲームなど媒体を問わず、優れた作品が持つ力。物語が起こす力や相互作用によって現実が、そして夢の世界が大きく押し進み変化し奇跡のような終幕を迎える魅力に満ち溢れる作品です。
1920年代、ヨーロッパのどこか
事の始まりはひとりの少女ディディ・ナイトの「夜の脱出計画」。
ディディにしか見えない女性(通称)ドーン。プレイヤーはその詳細不明なキャラクター・ドーンになりディディの脱出計画を手伝います。
単純に考えてしまえば、「ドーン」は「ディディ」の生み出した幻想の人物…のように思えますが、もちろんそう簡単な種明かしではなく物語が進むにつれて様々な事実や可能性が明らかになります。
夜の街に抜けだした「ディディ」は歌手の「ママ」が出演しているキャバレーへと向かいます。
キャバレーの舞台裏に潜り込んだ「ディディ」は、口論している「ママ」を見つけます。
相手はなんとむかしに出て行った「パパ」でした。
「パパ」はどうやらこの街で大きなサーカスを興行しようと画策しているようです。しかし、多額の借金を抱えていてどうやらマフィアにもお金を借りているようです。
奇しくも、世界的なイリュージョニスト「ヴィンチェンゾ」がこの街を訪れていました。
「パパ」はサーカスの目玉に「ヴィンチェンゾ」のマジックショウを披露させたいようですが、彼はなかなか首を縦に振りません。
「ディディ」がサーカスのテントに忍び込むと、そこにあったアトラクションはガタガタで故障だらけ…「ドーン」と協力して壊れた機械を直すべく奔走します。「ヴィンチェンゾ」も欠けてしまえばサーカスはご破算になります。
果たしてサーカス興行は無事に成功するのか?
そして少女「ディディ」にしか見ることの出来ない「ドーン」の正体は?
物語はサーカスの成功如何とディディの家族の和解をテーマに一点に収束します。
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プレイ中に真っ先に思い浮かんだのがターセム監督の『落下の王国』
映像の魔術師ターセムのファンタジー映画です。
1915年ロスアンゼルス、撮影中の怪我で入院中のひとりの俳優ロイ。 たまたま居合わせた同じく入院中の少女アレクサンドリアに聴かせた寓話は、少女の夢の中で極彩色の世界となり『物語の力を信じている』少女によってやがてロイは救われ、魂が再生されます。
物語の構造としてもおそらく「Contrast」の元ネタの一つだと思います。
それと、少し懐かしいソフト(アーカイブで配信されてますが)の「Nights」も有りましたね。こちらも夢そしてイマジナリーフレンドの物語です。
では、「Contrast」の作中での語り手はだれか?
プレイしてまず初めに気づく違和感は主人公「ディディ」と「ドーン」以外の人物が一貫して全てシルエット、影絵として表現されていることです。誰の姿も見えない街を歩く二人。街自体も何かオカシイです。道路の終わりに大穴が開き、覗くと星空が見えます。もし全てが少女の夢だとして、介入出来る「ドーン」の存在は?
白いウサギの後を追いかけて最後にベッドの上で目が覚める。「ドーン」は単なるイマジナリーフレンドだったのか?安易なオチとしてそれもあり得るでしょうが、この作品は違いますね。これは後半のネタバレになりますが、奇術師「ヴィンチェンゾ」は多次元宇宙論(宇宙はこの一つではなく複数あるという学説)について研究していたことが分かります。もっと掘り下げるのならば、イリュージョンの研究の結果「多次元宇宙を行き来できる能力」があるように推察できます。そしてゲーム中に明示されますが「ディディの実の親はヴィンチェンゾなのです」
このゲームのテーマ『光と影』にもあるように常に対となり重なりあう存在。それがプレイヤー「ドーン」です。
◇ドーンは守護天使?
考察その1
「ドーン」はかつて「ヴィンチェンゾ」の助手であった事を示す写真(日付は1900年)が存在します。そして「ヴィンチェンゾ」の工房で見つけた古びた新聞記事のスクラップには、とあるイリュージョニストが消失奇術の際、助手「オーロラ・ローズ」 を消すトリックをしたはいいが、再び現れるはずの助手は何処かに消えてしまった。という内容
ピンと来る人もいるでしょうが、ノーラン監督の「プレステージ」を彷彿とさせます。
そのイリュージョニスト=「ヴィンチェンゾ」、助手=「ドーン」という説。違う宇宙から「ローズ=ドーン」が「ディディ」にだけ見える守護天使として現れた。
◇ディディ=ドーン?
考察その2
このゲームの舞台が夢の中なのは間違いないですが、果たして誰の夢なのか?
多元宇宙を行き来できる能力を「ドーン」が持っていたとするならば…
理想の姿になれた「ディディ」の記憶を持つ「ドーン」の夢というのも考えられます。
- ディディの影としてのドーン
- ドーンの影としてのディディ
なりたい自分になれた「ドーン」が別の宇宙から現れ「ディディ」のつまり自分の『自助』として現れ然るべき収束、夢、理想に向かう。
「ディディ・ナイト(闇夜)」 →「オーロラ・ローズ」→「ドーン(夜明け)」
胡蝶の夢が夜明けに終わる物語でした。
最後にプレイそのものについて
演出としては素晴らしかったけど、謎解きとしてメカニクスとしての「影絵使い」は今一つといった感じでした。少しパズルゲームとして考えるのは後半のとある建物のシーンだけで、思ったよりは「物を運んだり移動させて足場を作る場面」が多くない印象です。また、影に入っている時に他の移動する影に接触すると強制的に表のレイヤーに弾き出されるのですが、この判定がいまいち調整不足な印象でした。
しかし、Steamセール期ではContrast本編が400円、サントラ付きが500円程度で購入出来ますので強くオススメしたい作品です。